名もなきもの


私達はここを動く事ができません

熱い炎がこの身を焼き
鋭い刃がこの身を引き裂き
数多の足がこの身を踏みにじり
どんなに痛くても
どんなに苦しくても
私達はここを動く事ができません


鳥のように飛ぶことも
魚のように泳ぐ事も
人のようにあることもできない私達は
ただただ この身に降りかかる災禍に
黙って耐え忍ぶばかり


私達は名も無い花です
道端に咲く、小さな花です

けれど
人の心を和ませた事もあったのです

優しく摘んで髪に飾ってくれた少女も
今はもういません

動く事のできない私達の傍らで
動けるはずの人でさえ
同じ様に焼かれてゆくのです


ここを動けない私達にできるのは
せめて 祈るばかり


焼かないで
引き裂かないで
踏みにじらないで


優しい手を
これ以上奪わないで










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